化学プロセス産業をはじめとした製造業において、プロセスや操作における危険源を抽出する安全性を評価する手法の標準となっている「HAZOP」は、世界中で広く用いられている手法です。
日本国内でも労働災害を防止する安全性評価の手法として関心が高まっています。なぜHAZOPが有効なのか、その特徴をとらえておくことは重要なことです。
そこで今回は、HAZOPの定義と基本的な考え方、特徴をわかりやすく解説します。
HAZOPとは
まずはHAZOPの定義を確認しておきましょう。
HAZOP(Hazard and Operability)とは
HAZOPとは、Hazard and Operability (hazard:危害分析、operability:運転性の検証)の略称で、世界的に用いられている、主に化学プロセスにおける安全性および運転性の評価手法です。
化学プロセスとは、原材料を化学的にもしくは物理的、生物学的なプロセスを通じて製品を作り出す工程を指します。産業分野としては化学・医薬・食品・鋼鉄産業など多岐にわたります。
1960年代に英国の会社が自社の化学プロセスを対象として開発し、1970年代に英国の化学産業協会(CIA)が「HAZOPガイドライン」を発行したことで一般に広まり、世界的に普及しました。
今では、化学プロセス産業におけるプロセス危険解析手法の標準となっているほか、他の産業分野においてもその有効性が認められたことから、広く活用されています。
化学などのプロセスを含む産業は危険を伴うことから保守管理が重要ですが、HAZOPの評価結果を用いれば、必要な安全対策を実施できるようになります。
HAZOPの開発背景
HAZOPは、1960年代に英国のICI社が開発したといわれています。きっかけは、同社が自ら開発した新規化学プロセスを対象とした危険性の特定にあります。その新規化学プロセスに潜む危険性をすべて網羅して洗い出すことで、それぞれが生じる影響や結果について評価し、その評価結果を用いて安全対策を実施したとされています。
HAZOPの基本的な考え方
HAZOPの基本的な考え方をご紹介します。
設計意図からの「ずれ」を網羅する
HAZOPでは、設備や機械、システムに潜む危険性や運転上の阻害要因を、もれなく特定できるかが重要視されています。そして設備や機械、運転状態の「設計意図からのずれ」である、プロセス異常に着目します。
「適切に設計され、作られた設備や機械というものは、設計意図通りの状態を保ちながら運転する限り安全である」という考え方が根底にあります。そして、設計意図とは異なる状態「ずれ」が発生したときに、危険な状態や事故が起こることになります。
「ずれ」の把握と危険・事故の予防
その「ずれ」を考えられる限り洗い出し、事前に把握することで「ずれ」の発生自体を予防することが可能です。
万が一「ずれ」が発生してしまったとしても、そこから危険な状態や事故につながる発展を阻止することで、設備や機械の安全は確保できます。
ガイドワードを利用して「ずれ」を系統的に想定
HAZOPでは、その設計意図からの「ずれ」を漏れなく洗い出すための「ガイド(案内役)」として、「ガイドワード」と呼ばれる言葉を使います。
【主なガイドワードとその意味】
- No/None:設計で意図したことがまったく起こらない。
- More:設計で意図した最大値を超えることが起こる。
- Less:設計で意図した最小値を下回ることが起こる。
- Reverse:設計意図と逆のことが起こる。
- As Well As:設計や運転で意図したことはすべて達成されるが、その他に余分なことが起こる。
- Part Of:設計や運転で意図したことの一部しか達成されない。
- Other Than:設計意図はまったく起こらず、まったく異なることが起こる。
これらのガイドワードを、安全性を評価したい設備や機械、システムなどの設計・運転パラメータや操作と組み合わせることで、設計意図から外れる可能性を抜け漏れなく見つけ出すことができます。
- 設計・運転パラメータの例:流れ、流量、温度、圧力、組成、液面高さなど
- 操作の例 :反応、加熱、冷却、攪拌、分離など
HAZOPの基本的な実施手順
HAZOPの基本的な実施手順をご紹介します。
1.設計意図からの「ずれ」の可能性を洗い出す
設計意図から「ずれ」が生じるケースを網羅的に洗い出します。
ガイドワードと設計・運転パラメータ、操作方法を組み合わせて出します。
例)「流量なし(No+Flow)」「逆流(Reverse+Flow)」など
2.「ずれ」の原因となり得る故障や人間による誤操作を洗い出す
1で洗い出した「ずれ」の原因となり得る故障や、オペレーターが操作する際の誤操作の可能性を洗い出します。
3.故障や誤操作の結果、発生し得る異常を特定する
2で洗い出した故障や誤操作の結果、どのような異常が発生し得るか特定します。ここでは、すでに備わる防護設備はないものとして実施します。
4.現状の安全対策の評価
3で特定した異常に対して、現状、安全対策が十分になされているかを評価します。
5.改善案の検討
安全対策が不十分である場合は改善策を検討します。
HAZOPの特徴
続いて、HAZOPの特徴を見ていきましょう。
見落としの少ない網羅的な解析が可能
HAZOPでは、ガイドワードとパラメータの組み合わせによって設計意図との「ずれ」を想定することから、見落としが少ないという利点があります。また、プロセスを構成するすべてのラインや設備・機械、運転手順などを検討対象とすることも網羅的に検討できる理由です。つまり、潜在的なリスクを網羅できる点が大きな特徴です。
系統的で仕組みが簡単
HAZOPは系統的である点、また仕組みが簡単で理解しやすいのも特徴です。手順に沿って系統的に解析できる点は、事業場で実践しやすいといえます。
異なる視点による検討が可能で、より全体的なリスク回避につながる
HAZOPは、設備や機械のプロセスだけでなく、運転も網羅するため、それらのさまざまな視点と専門知識を持ったメンバーで構成されるチームで実施することになります。この異なる分野の専門家が集まることによる、「多様な視点」は、より全体的なリスク回避につながるといえるでしょう。
ワークシートが成果物となる
HAZOPで安全性評価を実施した後は、洗い出されたリスクに対する対策・提案事項が検討されます。その結果、設計意図からの「ずれ」や潜在する危険性・運転上の問題、それらの対策、提案事項などを記録したワークシートが成果物として得られます。
検討・実施には多大な時間を要する
HAZOPを実施するには、まず検討段階としてパラメータや操作の洗い出しから、潜在リスクの洗い出し、対策の検討など、多大な時間を要します。そのため、できるだけ効率の良い方法が求められます。
設計・教育シーンにも適用可能
HAZOPは単に現場の安全性評価に役立てられるだけでなく、設備や機械、システムそのものの設計時にも安全面からの評価としても利用できます。また、各プロセスの特性を理解しやすく、異常に関するイメージトレーニングにも応用できるため、教育・研修面にも役立ちます。
まとめ
HAZOPは、化学プロセス産業をはじめとする製造業において、リスクを網羅的に抽出し、安全対策を検討するための有効な評価手法です。基本的な考え方と特徴を理解し、設計・運転・教育など幅広い場面に取り入れることで、事業場全体の安全性を高めることができます。
特に近年は、労働安全衛生法の改正や自律的な化学物質管理の流れもあり、HAZOPのような体系的なリスク評価手法の重要性はますます高まっています。企業は、HAZOPの導入に加えて、化学物質管理者の選任や保護具着用管理責任者の配置、ラベル・SDSの徹底など、総合的な安全管理を進めることが求められます。
また、評価手法の理解を深めるには、従業員一人ひとりが危険有害性を学び、実務で活かせるようにする教育も欠かせません。わかりやすい教材や動画を活用して安全意識を高めることが、最終的には労働災害の防止につながるでしょう。
「LaKeel Online Media Service」では、労働安全衛生に関する幅広い教育コンテンツを提供しており、HAZOPや化学物質の取り扱いに関する学習にも役立ちます。ぜひご活用いただき、職場の安全文化をさらに強化してください。
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