建設業や製造業などを中心に認証取得が行われている労働安全マネジメントシステムの国際規格であるISO45001。要求事項を満たすマネジメントシステムを構築し、継続的に運用することで、安全衛生リスクの低減や社会的信頼の獲得、企業競争力の強化など多くのメリットが期待できます。
今回はISO45001の基本から認証を取得するメリット、要求事項、取得する手順についての概要をご紹介します。

ISO45001とは?

ISO45001とは、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格です。

ISOとは、国際標準化機構「International Organization for Standardization」の略称で、スイスのジュネーブに本部がある非政府組織です。国際的な取引をスムーズにするために複数の規格を制定しており、製品そのものを対象とする「モノ規格」や、組織の品質活動や環境活動を管理するための仕組みであるマネジメントシステムについての「マネジメントシステム規格」があります。

ISO45001は、マネジメント規格の一種であり、労働安全衛生マネジメントシステムを構築した上で運用し監査を通過することで認証を取得することが可能です。

ISO45001の目的は、働く人の負傷・疾病を防止し、安全で健康な職場を実現するための枠組みを提供することにあり、認証取得に取り組むことで、労働環境を改善し企業価値向上に繋がります。

OHSAS18001との関係と違いについて

OHSAS18001は労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格です。ただし、OHSAS18001は、2021年3月に廃止されISO45001に統合されました。

OHSAS18001は、労働安全衛生法令や労働安全衛生に関する自主的な活動を、組織的かつ体系的に運用管理するための仕組みです。ISO45001とシステム自体の目的に大きな差異はありませんが、ISO45001では組織の状況の把握や計画策定などISOマネジメントシステム特有の事柄が要求事項となっており、新たな要求事項が追加および、詳細化された点に違いがあります。

ISO45001の認証を取得するメリット

ISO45001の認証を取得することは、次のような多くのメリットが期待できます。

・安全衛生管理に関するポリシーの明確化
ISO45001認証を取得するには、労働安全衛生マネジメントシステムを構築して運用する必要があります。その際、自社におけるポリシーを明確化することになることから、統一された指針のもと、全社的に行動することができるようになります。

・従業員の負傷・疾病防止
労働災害が減ることにより従業員の負傷・疾病を防止することができます。

・安全で健康的な職場の推進
マネジメントシステム運用により、安全衛生上の課題が明確になるため安全で健康的な職場づくりを推進できます。

・管理監督者や安全衛生担当者の育成
審査に向けて専門的な知識を身につけ、指導力を備える管理監督者や安全衛生担当者が育ちます。

・役割・責任・権限の明確化
マネジメントシステム構築によって役割や責任、権限が明確になるため、責任感を持って役割を果たすことができるようになります。

・従業員の意識向上・活性化
トップダウンによる一方的な施策ではなく、従業員の参画のもとで行うため、従業員の労働安全衛生における意識向上および活性化につながります。

・PDCAサイクル
マネジメントシステムの運用はPDCAサイクルを回し実施していくため、継続することで改善が進み、安全衛生水準の向上につながります。

また、第三者認証を取得することにより、CSRの重要事項「安全で安心して働ける企業」であるという社会的信頼の獲得につながり、企業のイメージアップや競争力の強化にも貢献するなど、多くのメリットを得ることが可能です。

ISO45001の要求事項

要求事項とは、ISO45001の規格において企業が実現すべき基本的な要件のことを言います。ISO45001の取得するためには、この要求事項の要件を満たす必要があり、規格に適合しているかどうか評価を受けることで、規格の認証が行われます。

ISO45001の要求事項は、主に次のものとなっています。概要を確認しておきましょう。

適用範囲

組織ごとの労働安全衛生方針のもと、労働安全衛生パフォーマンスを継続的に改善し、法的要求事項とその他の要求事項を満たした上で、労働安全衛生目標を達成することが求められています。そのための目標設定やどのような成果を得たいのかを明確にした上で計画を立て、PDCAサイクルを回して改善を継続していきます。

各項目

・組織の状況
経営の方向性を決定していくにあたり、まずは組織の状況を理解することが要求事項として定められています。組織やその状況の理解、働く人々や利害関係者のニーズや期待の理解、労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲の決定などが挙げられます。

・リーダーシップ
リーダーシップやコミットメント、方針、組織の役割、責任や権限、働く人の協議と参加などの決定が求められています。
トップマネジメントのリーダーシップは、労働安全衛生マネジメントシステムの運用上、最も重要な成功要因であることから、トップマネジメントが自ら主導することを要求しています。

・計画
危険源を特定し、リスクや機会への対応と評価を行いながら、労働安全衛生マネジメントシステムの目標と達成のための計画策定、法的要求事項の決定などが求められています。

・支援
労働安全衛生マネジメントシステムを確立して実施し継続的に改善していくにあたり、組織を支えていく上で必要となる資源(ヒト・モノ・カネ)、力量(能力・スキル)、認識(情報伝達)、コミュニケーション(情報共有)、情報の文書化の取り組みが求められています。

・運用
運用の計画と管理、危険源の除去や労働安全衛生リスクの低減、変更の管理、調達、緊急事態への準備と対応などの要求事項が定められています。

・パフォーマンス評価
モニタリングや測定、分析、パフォーマンス評価などが求められています。労働安全衛生マネジメントシステムの有効性を評価し、労働安全衛生パフォーマンスの向上につなげていきます。

・改善
意図した成果と労働安全衛生方針、労働安全衛生目標を達成するために組織が計画した取り組みを実施することを要求しています。

ISO45001の認証を取得する手順

これからISO45001取得を考えている場合、認証取得に向けた手順を知りたいと思う人は多いのではないでしょうか?
ここでは、ISO45001認証を取得するための手順を簡単にご紹介します。

取得の流れ

まずISO45001の認証を取得するには、審査を受けるまでに労働安全衛生マネジメントシステムを構築・運用する必要があります。その後、認証の審査を受け、規格への適合性が認められると、ISO45001を取得することができます。

システム構築~運用まで
・労働安全衛生指針の策定、適用範囲の決定
・労働安全衛生マネジメントシステム構築
・認証取得に向けたスケジュール策定
・手順書や規定類の作成
・人材教育の実施
・事務局など体制確立
・労働安全衛生マネジメントシステム運用
・取り組み内容の記録と分析、評価
・内部監査と是正処置の実施
・労働安全衛生マネジメントシステムの見直し

審査~認証取得まで
・認証審査申請書の提出
・基本契約締結・審査料支払い
・審査(数回、現地審査含む)
・是正処置の報告
・登録証の授与

まず自社における指針と目標を明確にし、労働安全衛生マネジメントシステムを構築します。そして運用をするためにスケジュール策定や手順書の作成、社内の人材教育、体制を整えるなどして運用を始めます。

運用を行いながら評価を行い、問題点を改善した上で、審査を受けるために認証審査申請書を認証機関に提出します。

審査は現調査も含めて数回にわたって行われます。何か改善すべきことがあれば、是正処置を行います。改善した旨を報告した後、認証登録が可能になります。

まとめ

ISO45001の認証取得を目指し行動することは、労働安全衛生マネジメントシステムを構築し、継続的に運用することで、安全衛生リスクの低減や社会的信頼の獲得、企業競争力の強化などにつながります。

先述の通り、ISO45001を取得するための要求事項「支援」の項目には「力量」があります。これは危険源の特定や労働安全衛生リスクの対処を適切に行うために必要な知識、技能を得るための教育訓練などを実施することで、必要な力量を付与することを求められています。つまり、労働安全衛生に関する全般的なスキルを身に付けるために教育・研修が重要と言えるでしょう。

近年は、従業員一人ひとりが持つ知識や技能、能力、資質などの付加価値を生み出す資本を「人的資本」と呼び、重要視する考え方が浸透しつつあります。人的資本経営の取り組みを進める上で、教育・研修はより重要度を増していくと考えられます。

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