労働災害を未然に防ぐための活動は様々ありますが、ツールボックスミーティングは、多くの現場で取り入れられている活動の一つです。作業開始前に短時間行うことで、作業員の安全意識が高まり、チームワークが強化されるため、労働災害を防止する有効的な手段とされていますが、その詳細を知らない人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、ツールボックスミーティングについての概要や目的、その効果や実施方法まで詳しくご紹介します。

ツールボックスミーティング(TBM)とは

ツールボックスミーティングとは、職場で行われる作業開始前に行われる短時間のミーティング、打ち合わせを指す言葉です。元々はアメリカの職人たちが作業開始前には「ツールボックス=道具箱」を囲んで安全や作業内容について話し合っていたことに由来していることから名付けられました。英語表記では”Tool Box Meeting”と記載されることから、 頭文字をとって”TBM”略して”ティー・ビー・エム”とも呼ばれます。

ツールボックスミーティング(TBM)の内容と目的

ツールボックスミーティングの目的は、不安全行動や事故を未然に防ぎ、安全かつ効率的に作業を進めることです。ツールボックスミーティングは、作業開始前や昼食後の再開時、さらに作業の切替え時など、さまざまな場面で必要に応じて行われます。これらのミーティングは通常、5分から10分程度で実施され、主な議題は安全に関する話題やその日の作業計画です。基本的には職長を中心に、その日の作業予定や作業範囲、段取り、分担などを確認し合います。全員で潜在的な危険性と必要な安全対策を詳細に確認し、共有することで、作業チームは事故防止と作業効率の向上を図ることができます。このプロセスは、現場の安全と作業効率の向上に重要な役割を果たします。

ツールボックスミーティング(TBM)で得られる効果

・安全意識の向上

ツールボックスミーティングは、作業員が安全意識を常に持つことを確実にするための手段として利用されます。作業前の打合せを通じて、作業員は危険なポイントを改めて確認することができ、危険予知能力を高めます。

・リスク評価と管理

その日の作業に関連するリスクを再確認し、適切な安全対策を講じるきっかけとなります。これにより、リスクの早期発見と対応が可能となり、事故の発生確率を減少させることができます。

・情報共有とチームワークの強化

ツールボックスミーティングは、作業員同士のコミュニケーションが活性化され、チームワークの強化に繋がります。全員が同じ情報を持つことで、作業の一貫性と協調性が向上し、作業効率が高まります。

ツールボックスミーティング(TBM)と危険予知活動(KYK)の違い

ツールボックスミーティングは、危険予知活動(KYK)と組み合わせて行われることが一般的です。両活動はしばしば連携して行われますが、その目的と実施のタイミングや方法にはそれぞれ違いや特徴があります。

ツールボックスミーティング 危険予知活動
概要 作業を開始する前に5~10分程度で実施する安全会議のことで、これから行う作業の安全な段取りや作業工程を確認し、現場での情報共有を実施します。これにより、事故予防と作業効率の向上を図ります。 作業開始前に限らず、職場や現場で危険情報を共有し、危険ポイントと行動目標を設定することで、ヒューマンエラーによる事故を防ぐために行う活動のことを指します。
タイミング 具体的な作業を開始する直前に行われます。 定期的または必要に応じて、日常的に行われる活動です。
方法 作業者が集まり、短時間で情報共有と確認を行う形式です。 より広範な危険要因の特定や、職場全体での問題解決策の検討を含むため、単なる情報共有を超えた活動を行います。

ツールボックスミーティング(TBM)と危険予知活動(KYK)はどちらも職場での安全を確保するための活動ですが、目的と実施のタイミングや方法に違いがあります。ツールボックスミーティング(TBM)は作業直前の具体的な安全確認に特化しているのに対し、危険予知活動(KYK)はより広範囲でのリスク管理と事故防止策の定着に焦点を当てた継続的な活動といえるでしょう。

ツールボックスミーティング(TBM)の具体的な進め方と実施方法

ツールボックスミーティングは、どのようなに進めればよいのでしょうか。実施タイミングや具体的な進め方についてご紹介します。

ツールボックスミーティング(TBM)の実施タイミング

ツールボックスミーティングは、通常、朝の作業開始前に5分から10分程度の時間を使用して行います。必要に応じて、昼食後の作業再開時や作業の切替え時にも実施されることがあります。職長が主導して、その日の作業範囲、段取り、分担などを説明し、全員で安全衛生のポイントを確認するのが一般的です。

ツールボックスミーティング(TBM)の具体的な進め方

ステップ①【導入】作業内容の確認

ツールボックスミーティングの最初のステップでは、その日の作業内容を確認し、具体的な分担と担当者を明確にします。この段階で、参加者に関心を持ってもらい、意識を高めるために、議論のテーマを提供します。目的は、「危険ポイントの回避」を明確にし、作業中に生じ得るリスクを共有して対策を講じる準備をすることです。

ステップ②【意見を引き出す】危険ポイントの特定

テーマに基づき、参加者からの意見や考えを引き出すことが重要です。このステップでは、積極的に質問を投げかけ、参加者全員が発言する機会を持つよう促しましょう。危険ポイントを特定し、それに対する認識を共有することで、具体的な対策の立案につなげます。日々変化する作業環境において、何が危険かを明確にすることが不可欠ですので、しっかり話し合いましょう。

ステップ③【まとめ】事故防止策の確認と決定

ミーティングの最後には、話し合われた内容を基に、事故を防ぐための具体的な方法を決定します。このステップでは、危険ポイントが明らかになったら、それをどう回避するかについて具体的な行動計画を策定します。解決されなかった問題については、次回のミーティングまでの一時的な対応策を決め、継続的に対応策を議論するようにしましょう。

これらのステップを踏むことで、ツールボックスミーティングは作業現場の安全を確保し、事故発生のリスクを減少させる効果的な手段となります。毎回のミーティングを通じて、作業者の安全意識を高め、職場の安全文化を育てることが重要です。

また、労働災害を防止するための手段としては、KYT(危険予知訓練)のKYT4ラウンド法も効果的です。

【関連コラム】
KYT(危険予知訓練)とは?進め方や例題をご紹介します

ツールボックスミーティング(TBM)が効果的な理由

ツールボックスミーティングで重要なポイントがあります。それは、現場で作業前に行うことです。実は、学ぶ環境によって記憶の定着率に差が出るという事実があり、職場の安全教育においては、実際の作業環境で行う重要性が、科学的な研究によって裏付けられています。

1975年にD.R.ゴッデンとA.D.バドリーが発表した記憶に関する論文によると、学ぶ環境によって、学習した単語が思い出しにくくなるという研究結果が記述されています。

この研究では、大学のダイビング部に所属する学生18人を対象に、約6メートルの深さの海中と陸上の両方で暗記テストを行い、海中で覚えた単語リストを海中と陸上の両方でテストを行った場合、そして、陸上で覚えた単語を陸上と海中でテストを行った場合のスコアの違いを計測しました。その結果、海中で覚えた単語は海中でテストした場合、陸上で覚えた単語は陸上でテストした場合の方がスコアが高いという結果になりました。要するに、人は環境が変わると覚えた単語がうまく思い出せないようです。

この研究結果から、現場で行うツールボックスミーティングが効果的な学習方法であることがわかります。つまり、事業場で発生する様々な危険事象を予測し、適切に対処するためには、事業場で教育を行う方がはるかに効果が上がるということです。そうした意味で、ツールボックスミーティングは私たちが思っている以上にとても重要なミーティングなのかもしれません。

繰り返しになりますが、大切なのは、会議室ではなく、実際の現場で作業開始直前にツールボックスミーティングを行うことです。そうすることで、作業内容とその場での確認事項が直接関連付けられ、学習効果が向上します。

参考文献:
Godden,D.R., & Baddeley, A.N.D Context-dependent memory in two naturalenviroments:On land and underwater”British Journal of Psychology, 66,325-331,1975
体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉伊藤亜紗著 株式会社文藝春秋 2023年5月20日第4刷

労働安全衛生教育の効果的な方法~成功事例から学ぶ

労働安全衛生教育を行う多くの事業者は、主に次のことで課題を感じているといわれています。

  • 従業員の学習意欲が低い
  • 教育しても理解度が低い・実務で活かされない
  • 教える側が押し付けになりがち
  • 従業員が教える内容に興味を持ってくれない

これらの課題を解決するための一つのアプローチとして、成功事例から学ぶ方法があります。これは、近年、労働安全の考え方として注目されている「Safety-II」に基づくもので、事故の未然防止に加えて、うまくいっている事例にも注目することで、安全を探求する方法です。これは、従来の「Safety-I」のアプローチを含みつつ、成功事例を分析し、なぜ物事がうまくいっているのかを明らかにすることで、日常の安全の維持に役立てます。

例えば、ツールボックスミーティングにおいても、Safety-IIの視点を取り入れることにより、既に高い安全性を達成している現場でも、「成功事例」に着目することで新たな学習機会を発見し、更なる安全文化の構築を目指すことができます。成功事例からの学びは、めったに起こらない失敗事例とは異なり、日常業務の中で頻繁に生じるものです。従って、従業員にとって身近な業務に関連する事例から学ぶことができ、教育の効果を実務に活かしやすくなります。

【関連コラム】
労働安全衛生教育の方法を解説

まとめ

ツールボックスミーティング(TBM)は、作業現場での労働災害を未然に防ぐために非常に重要な役割を果たしています。短時間で実施されるこのミーティングは、作業員の安全意識の向上、リスク評価と管理、情報共有とチームワークの強化を目的としており、具体的な作業の安全確認に特化していると言えるでしょう。また、危険予知活動(KYK)と組み合わせることで、より広範囲でのリスク管理と事故防止策の定着が期待されます。

ツールボックスミーティングを上手く活用することで、職場の労働災害は未然に防ぐことができます。ぜひ日頃の安全衛生活動の取り組みに役立ててください。

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