近年、日本の夏の暑さは一段と厳しくなっており、熱中症にかかる方が年々増加しています。特に、製造現場で働く方は熱中症にかかりやすいため、熱中症対策を行う必要があるでしょう。
この記事では、工場で熱中症対策をすべき理由や工場でできる熱中症対策を解説します。
POINT
・工場は熱中症のリスクが高い
・熱中症になるだけでなく、生産性にも影響するため、熱中症対策は重要である
・体調管理や水分補給はもちろん、便利グッズも活用して熱中症対策をしよう
熱中症とは
熱中症とは、体温調節機能が働かなくなり、体内の水分や塩分のバランスが崩れた状態のことです。屋外だけでなく室内で何もしていない時でも発症し、場合によっては死に至ることもあります。
熱中症の原因
熱中症を引き起こす原因として「環境」「体」「行動」の3つが考えられます。
それぞれの内容は以下の通りです。
環境 | 気温や湿度が高い・日差しが強い・風が弱い・閉め切った屋内・急に暑くなった日 |
体 | 水分不足・塩分不足・寝不足・体調不良・暑さに慣れていない |
行動 | 激しい運動・長時間の労働・水分補給できない状況 |
これらの原因が重なると、熱中症を発症しやすくなります。特に、梅雨の晴れ間や梅雨明け後の時期、前日と比べて気温が急激に上昇している日は要注意です。
また、公園や運動場など強い日差しが当たる場所や駐車場に止めた車、体育館などの風が通りにくい場所でも熱中症が起こりやすくなります。
熱中症の症状
熱中症を発症すると体温調節機能が働かなくなるため、以下の症状を引き起こします。
- めまいや立ちくらみ
- 顔のほてり
- 筋肉痛や筋肉のけいれん
- 倦怠感や吐き気
- 異常な汗のかき方
- 意識障害
- 40℃を超える高熱
熱中症には、軽い症状から命に関わる重症まであるため、これらの症状が見られる場合は、直ちに冷房が効いた屋内や木陰などの涼しい場所に移動して休む必要があります。
工場で熱中症対策をすべき理由
特に、工場は熱中症にかかりやすい環境であり、熱中症対策は不可欠です。工場で熱中症対策をすべき理由として、以下の5つが挙げられます。
年々暑くなっているため
まず、日本の平均気温の上昇です。気象庁の「気候変動監視レポート 2023」によると、日本の平均気温の上昇率は100年あたり1.35℃となっています。
また、2023年の日本の平均気温は過去30年の日本の平均気温よりも1.29℃高く、統計を開始した1898年以降で最も高い値を記録しました。
東日本や西日本だけでなく北日本でも平年を超える気温を記録しており、熱中症対策は今後ますます求められるでしょう。
参考:気象庁「気候変動監視レポート 2023」
製造工程に熱源があるため
外からの熱だけでなく、工場内部にも熱源があると熱中症にかかりやすくなります。製造工程で火や熱湯を使うと、それに応じて工場の温度も上がるためです。
また、機械を動かすと電気抵抗により熱が発生するため、機械で作業を行うたびに工場に熱がこもってしまうでしょう。特に、成型機や電気炉などを使っている工場は要注意です。
熱がこもる構造になっているため
工場では、大型設備を設置していたり大量の物を保管していたりするため、風通しが良くありません。天井も高く空間が広いため、空調が効きにくく、作業現場全体が暑くなりやすい傾向にあります。
また、工場の屋根は金属の板を折り曲げて作られる「折板屋根」が一般的です。金属製の屋根は、直射日光を受けると表面温度が80℃近くまで熱せられることがあり、屋内であっても放射熱により室内の温度が上昇します。特に工場では、屋根の下に仕切りや断熱材が施工されていないケースが多く、内部に熱が直接伝わってしまうのです。
熱中症になるとリスクがあるため
熱中症にかかると、最悪の場合亡くなってしまう恐れがあります。厚生労働省の調査によると、2023年に職場で熱中症にかかった1,106人のうち、亡くなった方は31人と報告されています。
死亡者数は全体の2.8%であり、決して無視できないリスクです。
また、熱中症により後遺症が残るかもしれません。熱中症治療後も倦怠感やめまい・頭痛などが数ヶ月間続く場合があり、高次脳機能障害やパーキンソン症候群を引き起こした事例も報告されています。
こうしたリスクから従業員を守るためにも、熱中症対策は必要です。
参考:厚労省「令和 5年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」
生産性が低下するため
生産性の低下を防ぐためにも、熱中症対策は重要です。
熱中症を発症した従業員は仕事を中断して休む必要があるため、その分生産性が低下します。
また、工場内が高温になると大量の汗をかいてしまい、従業員は作業に集中できなくなるでしょう。さらに、高温下での作業は疲れやすいため、作業効率の低下や人的ミスの増加なども起こりえます。
日本建築学会の研究によると、25度から1℃上がるごとに作業効率が2%低下したという結果が出ています。
参考:日本建築学会「オフィスの温熱環境が作業効率及び電力消費量に与える総合的な影響」
工場でできる熱中症対策<管理者側>
工場での熱中症を防ぐためには、多角的な対策が必要です。まずは、熱中症が発生しやすい状況や熱中症が発生した場合の対応を、管理者が主導して従業員全員に把握させましょう。
ここでは、管理側ができる熱中症対策を紹介します。
熱中症警戒アラートを確認・共有する
熱中症警戒アラートを確認して従業員に共有すると、熱中症対策につながります。
熱中症警戒アラートとは、特に暑くなると予測された日の当日や前日に、環境省と気象庁から発令されるアラートです。熱中症警戒アラートが発令されている場合は、従業員にこまめな水分補給や休憩を促して、熱中症を予防しましょう。
熱中症警戒アラートの発表状況は、環境省や気象庁のサイト、メール配信サービス、そして環境省公式アカウントによるLINE通知で確認できます。
WBGTを活用して職場環境を管理する
WBGT(暑さ指数)は、気温、湿度、輻射熱を総合的に評価する指標であり、労働環境における熱中症リスクを把握するために非常に有用です。工場内の各作業場でWBGTを測定し、基準値を超えた場合は適切な対策を講じることが重要です。例えば、作業の一時中断や休憩の追加、水分補給の強化などが考えられます。
【関連コラム】
熱中症の予防に役立つWBGTとは?労働災害の熱中症事例も解説
熱中症の症状を従業員と共有する
熱中症はどんな病気なのか、症状や報告義務など最低限の知識とルールを従業員全員と共有することが大切です。症状を知ることで、従業員それぞれが体調管理を意識するようになります。また、熱中症の初期症状を知れば、周囲の従業員の異変にもいち早く気づけるようになるでしょう。
熱中症の応急処置を覚えておく
従業員が熱中症にかかった場合に備えて、熱中症の応急処置を覚えておくことも大切です。
環境省が公表している「熱中症環境保健マニュアル 2022」によると、周りの方が熱中症にかかった場合、以下の応急処置を施す必要があるとされています。
- 呼びかけに応える場合は、風通しの良い日陰やクーラーが効いている室内に避難させる。
- 呼びかけに応えない場合は、衣服やベルトを緩め、風通しを良くして体を冷やす。氷のうがある場合は、首の両側や脇の下・太ももの付け根を集中的に冷やす。
- 自力で水分や塩分を補給できる場合は、スポーツドリンクや経口補水液などを摂取させて、安静にして休息を取らせる。
- 自力で水分や塩分を補給できない場合や症状が改善しない場合は、医療機関を受診する。
参考:環境省「3.熱中症を疑ったときには何をするべきか」
従業員への熱中症対策教育の実施
熱中症対策として、従業員への安全衛生教育を行うことが必要です。特に、高温多湿の作業環境においては、適切な作業管理と労働者自身による健康管理が重要となります。以下の内容を踏まえた労働衛生教育を行いましょう。
- 熱中症の症状:熱中症の初期症状から重篤な症状までを理解し、早期に発見できるようにする。
- 熱中症の予防方法:こまめな水分補給、適切な休憩、通気性の確保、適切な服装などの予防策を徹底する。
- 緊急時の救急処置:熱中症発生時の応急処置方法や救急連絡手順を徹底し、緊急時に迅速かつ適切に対応できるようにする。
- 熱中症の事例:過去の熱中症の事例を共有し、具体的な対策の必要性を理解させる。
安全衛生教育を通じて、従業員に熱中症対策の重要性と具体的な方法を理解させ、全員が実践できるようにしましょう。これにより、労働者の安全と健康を守ることができます。
工場でできる熱中症対策<従業員側>
従業員個人が熱中症対策を行うことも重要です。
ここでは、従業員ができる熱中症対策を紹介します。
体調管理を行う
体調が悪いと体温調節機能が働きにくくなり、熱中症にかかりやすくなります。万全な体調で仕事に取り組むために、十分な睡眠とバランスの良い食事を取って、規則正しい生活を送りましょう。過度な飲酒による二日酔いや寝不足は脱水症状を引き起こしやすくなるため厳禁です。
水分・塩分補給を行う
汗をかくと体内の水分や塩分が失われるため、熱中症にかかりやすくなります。そのため、こまめな水分・塩分補給が大切です。一般的に飲料として摂取すべき量は1日1.2Lが目安とされており、コップ1杯程度(約150〜200ml)の水分をこまめに補給するのが望ましいといわれています。
また、大量に汗をかいている場合は、スポーツドリンクや経口補水液など、塩分濃度0.1〜0.2%程度の水分を摂取しましょう。
熱中症対策グッズを使う
クールベストや空調服などの熱中症対策グッズを使えば、体温を下げられます。熱中症予防だけでなく、涼しく感じることで作業を進めやすくなるでしょう。
熱中症対策グッズは、スーパーやドラッグストア・コンビニなどで手に入るため、手軽に対策できます。また、個人の体調やその日の天候に合わせてすぐに対策することも可能です。
工場でできる熱中症対策<施設設備>
気温が上昇しやすい工場において、施設・設備の導入は熱中症対策に効果的です。
ここでは、熱中症対策に有効な施設・設備を紹介します。
屋根用スプリンクラーを使用する
屋根用スプリンクラーとは、屋根に水を撒くことで発生する気化熱を利用して、屋根を冷却する設備のことです。屋根を冷却すると、工場内への熱の放出を防いで工場内の気温を下げられます。シンプルな設備で設置コストが低く、ランニングコストもエアコンより安い傾向です。特に、工場や倉庫など広い屋根を持つ建物ほど、省エネルギー化に効果を発揮するでしょう。ただし、水道代がかかるほか、散水によって屋根が劣化するので注意が必要です。
断熱塗装や断熱フィルムを活用する
低コストで導入できる方法の一つに、断熱塗装や断熱フィルムが挙げられます。断熱フィルムを窓に貼ったり、工場の屋根や外壁に断熱塗装を施したりすることで、熱の出入りを防げます。空調効率も高まるため、適切な温度や湿度を保ちやすくなるでしょう。
特に断熱塗装は、熱を通しやすいトタンや鉄板がよく使われている工場の屋根に効果的です。
空調制御システムを導入する
適切な温度や湿度を保つためとはいえ、常に人の手で空調を管理するのは現実的ではありません。しかし、工場内の空調を全て高性能な空調に買い替えようとすれば、莫大な費用がかかるでしょう。そこでおすすめなのが、空調制御システムの導入です。
空調制御システムとは、室内の温度や湿度を常に一定の値で保つように、自動で調整するシステムのことです。空調制御システムを導入すると、常に快適な室温を保てるだけでなく、空調管理の負担も大幅に軽減させられます。
空調制御システムの中には現在使用している空調設備に後付けできる場合もあり、空調の買い替えに比べて費用も大きくかかりません。
大型扇風機を使用する
工場内部に設置する暑さ対策の設備として、大型扇風機もおすすめです。業務用の大型扇風機は一般家庭用のタイプよりも羽が大きく、たくさんの風を生み出せます。また、他の空調設備と比べ、価格が安いことや排熱が発生しないこともメリットです。
大型扇風機には、床置きタイプや三脚タイプなど豊富な種類があり、シーリングファンという天井に取り付けるタイプも存在します。ただし、風でほこりが舞うことはデメリットです。特に、衛生管理が厳しい場所や精密機器を扱っている場所への設置は難しいでしょう。
スポットクーラーを使用する
スポットクーラーとは、取り込んだ空気を内部で冷却して送風する機器のことです。エアコンとは異なり、空間全体ではなく部分的に温度を下げる役割を持っています。キャスター付きの商品が多く、稼働させる場所を臨機応変に変更できることがメリットです。設置する際の工事も不要であるため、工場に届いた日から使えます。
ただし、スポットクーラーは基本的に室内機と室外機が一体型となっているため、排熱方法は十分に検討しなければなりません。
ビニールカーテンを使用する
空調とビニールカーテンを組み合わせて使うと、冷却効率を高められます。ビニールカーテンで空間を仕切ることで、外気を遮断し冷やした空気が逃げません。ビニールカーテンの設置は比較的コストも掛からず効果もすぐに表れるため、最初に導入したい方法の一つです。電気代の削減や省エネも期待できます。
吸排気フードを設置する
吸排気フードとは、機械から発生する熱や空気中の煙・ほこりを吸い込んで、外に逃がす設備のことです。機械の近くに吸排気フードを設置することで、熱せられた空気が工場内に広がるのを防ぎ、室温の上昇を抑えられます。
特に、火を使う食品工場や熱湯を使うクリーニング工場などでは必需品といえます。
休憩室を設置する
工場内の気温を下げる設備だけでなく、従業員が作業の合間にいつでも簡単に利用できる、休憩室の設置も重要です。冷房や扇風機を設置した涼しい休憩室で従業員を一旦休ませることで、熱中症リスクを下げられます。また、冷たいおしぼりやシャワーなどを用意しておくと、従業員の体を適度に冷やせます。さらに、水分・塩分補給ができるよう、休憩室には飲料水と塩飴を常に置いておきましょう。
工場でできる熱中症対策<便利グッズ>
熱中症対策に役立つグッズを活用することも重要です。
ここでは、熱中症を予防するためのさまざまなグッズを紹介します。
ボディシートや冷却タオル
ボディシートや冷却タオルも、熱中症対策に効果的です。ボディシートで体を拭くことで、汗のべたつきを解消して体感温度を下げられます。冷却タオルを顔や首に当てれば、気化熱により体表面の温度を下げることも可能です。
こうしたグッズは作業の邪魔になりにくいため、暑いと感じたタイミングで手軽に使えるでしょう。ただし、ボディシートや冷却タオルは、熱中症対策の一部として役立ちますが、根本的な対策ではありません。これらだけに頼らず、適切な水分補給や休憩などが重要です。
冷感素材のインナーウェア
冷感インナーの着用もおすすめです。冷感インナーは吸湿性や速乾性が高い素材を使用しているため、汗を素早く吸収して乾かせます。
また、肌に触れるとひんやりと感じる接触冷感タイプもあります。空調服やクールベストと組み合わせて使えば、冷却効果を最大限に高められるでしょう。
また、冷感素材のインナーウェアとしてコンプレッションウェアがあります。コンプレッションウェアは、さまざまな面で暑さを軽減できる便利グッズです。伸縮性に優れた生地で、着用すると体のラインにピタッと密着します。接触冷感の素材を使っている商品が多く、ひんやりとした肌触りのため、暑い環境でも快適に過ごせるでしょう。
また、水分を吸収してすぐ放出する素材で作られており、大量に汗をかいても不快になりにくいことも特徴です。さらに、適度な加圧により筋肉のブレや関節にかかる力を抑えてくれるため、工場における作業の負荷の軽減も見込めます。ただし、ボディシートや冷却タオルと同様、暑さ対策として非常に有効ですが、これらだけに依存するのではなく、総合的な熱中症対策を講じることが重要です。
クールベスト
クールベストとは、専用のポケットに保冷剤を入れ、体を冷やせるベストのことです。メッシュ素材でできているものが一般的で、両脇や背中上部にポケットが付いています。血管が集まっている場所を冷やせるため、効率的に体温を下げることが可能です。空調服のインナーとして着用すれば、より涼しさを感じられるでしょう。
空調服
空調服とは、小型ファンが内蔵された作業着のことです。ファンが服の中に外気を取り入れて汗を蒸発させ、体を冷やします。蒸発した汗を含む空気は首元や袖口から出ていくため、服の内側に熱気や湿気がこもりません。
また、屋外でも使用できることや、エアコンより格段に省エネであることもメリットです。ただし、ほこりや粉じんが舞っている工場では、ファンが故障する恐れがあるため注意しましょう。
まとめ
工場は構造上気温が高くなりやすく、熱中症のリスクが高い環境であるため、適切な対策が求められます。
管理者側は、熱中症警戒アラートを共有したり応急処置を覚えたりして、熱中症を未然に防ぎましょう。また、工場内に空調制御システムやスポットクーラー、大型扇風機などを導入することもおすすめです。そのほか、従業員自らが水分・塩分補給を行ったり、空調服やクールベストなどの便利グッズを活用したりすることも重要になります。
そして、何よりも安全衛生教育を徹底し、従業員一人ひとりに危機管理意識を持ってもらうことが必要です。LaKeel Online Media Serviceでは、熱中症はもちろん、あらゆる労働災害をアニメーション動画で解説しています。誰でもわかりやすく取り入れやすい内容になっているため、安全衛生教育におすすめのツールです。サンプル動画もあるため、ぜひ一度お試しください。
従業員の健康を守りつつ生産性を向上させるために、できる限りの熱中症対策を行いましょう。
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