日本は今後、少子高齢化による働き手不足がさらに深刻化していくとみられる中で、定年の延長や高年齢労働者の雇用推進などが国を挙げて取り組まれています。高年齢労働者が安全に働けるようにするためには、職場ごとに工夫が必要です。
特に安全衛生対策として、企業はどのような取り組みを行っていくべきなのでしょうか。
今回は、そのような取り組みを進めたい方に向け、高年齢労働者の安全衛生対策の必要性や、具体的な取り組み事例やポイントをご紹介します。
高年齢労働者の再教育ニーズが高まる背景
近年、事業者が高年齢労働者の安全衛生対策に注力すべき傾向が高まっています。
その背景として、次のことが挙げられます。
「一億総活躍社会」の実現に向けた働き方改革の推進
働き方改革は、高齢者や女性、障がいのある人も含めた、あらゆる立場の労働者が活躍する「一億総活躍社会」を実現するために行われています。若い世代だけでなく、高齢者もそれぞれの事情に応じた働きやすい環境づくりが求められています。具体的には、長時間労働の是正や短時間勤務の奨励による柔軟な働き方の実現などが挙げられます。
70歳までの定年引上げ
労働力不足を補うために、高齢者の就業が促進されています。具体的には、2021年4月1日に施行された70歳まで定年の引上げなどの内容を含む高年齢者雇用安定法の改正等が挙げられます。
高年齢労働者が活躍していくことは、国の労働供給という面から重要であると同時に、規模の大きい高年齢世代が所得を得て消費活動を行っていくことは経済活性化の意味でもプラスの効果を生み出すと考えられています。このことから、高齢者・熟練労働者の再教育ニーズや企業自身が高年齢労働者の安全衛生対策に取り組むことが求められています。
安全衛生対策の必要性
なぜ、特に安全衛生対策が必要なのでしょうか。その理由として、高年齢労働者の労働災害の発生状況が深刻であることが挙げられます。
厚生労働省によると、近年、労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者の占める割合が増加傾向にあるとされています。労働者1,000人当たりの労働災害件数は、男女ともに若年層に比べ高年層で高くなっています。
参考:厚労省「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」報告書(令和2年1月)
このことから、高年齢労働者の活躍していくためには、安全に働きやすい職場づくりが重要になってきます。
高年齢労働者の安全衛生対策の概要
高年齢労働者の安全衛生対策については、厚生労働省の「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」に沿って行うことができます。ここでは概要をご紹介します。
安全衛生管理体制の確立等
安全衛生方針を経営者自ら社内に表明し、担当する組織や人員を指定するなど、安全衛生管理体制を確立します。安全衛生管理の具体的な行いとしては、高年齢労働者による労働災害についてのリスクアセスメントが挙げられます。リスクアセスメントとは、職場の危険性や有害性を特定し、リスクを見積もった上で優先度を決め、リスクを低減する措置を決定する手順です。
職場環境の改善
高年齢労働者にとって働きやすい職場環境に改善する取り組みです。例えば、作業のしやすい照度の確保や、段差の解消といった設備・装置の導入が挙げられます。
また、勤務形態に柔軟性を持たせたり、作業スピードにゆとりを持たせたりといった作業管理も含みます。
高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
健康や体力について、健康診断や体力チェックなどを通じて実際の状況を把握する機会を設けます。事業者のみならず、労働者自身も客観的にとらえるためでもあります。
高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
健康診断や体力チェックなどの結果をもとに、安全と健康の観点から適合する業務をマッチングします。また、職場で簡易的な体操を習慣化するなど、身体機能の維持向上への取り組みも合わせて行います。
安全衛生教育
労働者が安全かつ衛生的な業務を遂行しながら、職場における労働災害を防止するために行う安全衛生教育を、高年齢労働者に最適な形で行います。例えば、講義の時間を長めに取り、写真や図、動画などを活用することなどが挙げられます。
参考:「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)
Safety-IIの視点を活かした安全衛生対策
従来の安全対策は「失敗の回避」を重視してきましたが、Safety-IIでは「何が成功を支えているのか」を理解し、それを強化することに焦点を当てています。この新たな視点を高年齢労働者の安全衛生対策に応用すると、以下のような取り組みが考えられます。
Safety-IIとは、「失敗やエラーの回避」に加え、日常業務が「なぜうまくいっているのか」に注目し、その理由を分析して再現・強化する手法です。労働者の「失敗を減らす」ことを目指す従来の安全教育とは異なり、Safety-IIは「異常が起きた際に柔軟に対応できる人材」を育てることを重視します。高年齢労働者が日常的に安全かつ効率的に業務を遂行できている具体例を収集し、そのうまくいっている要因を職場全体に共有します。作業プロセスでの工夫や、経験に基づくリスク回避方法などを、教育や訓練の内容に取り入れることは非常に有効です。例えば、「何が起こりうるか」を考えるワークショップをこともよいかもしれません。転倒事故の対策として、自宅や通路で転倒のリスクを自ら見つけ、対処法を考えることで、予見力を高め自己防衛能力が向上します。また、「転倒しなかった工夫」などを共有することで、職場全体のレジリエンス向上に繋がります。
高年齢労働者の安全衛生対策のポイント
高年齢労働者の安全衛生対策を実施する際には、さまざまな工夫を行うことができます。すでに多くの事業者が取り組みを実施しています。ここでは4つテーマとその事例を通じて、取り組みのポイントをご紹介します。
環境・設備の改善
働く環境や設備を改善する方策として、転倒事故防止のための段差の解消といったバリアフリー化や、設備の機械化による作業の半自動化、腰痛防止のための作業姿勢の改善などが挙げられます。
・製造業の事例
ある製造業の工場における自動車部品に関する溶接装置の組み立て現場では、重量物の取り扱いが多く、台車や走行クレーンを用いていました。しかし台車の移動は4~5人がかりであり、効率面で懸念があったほか、年齢層の高い作業員が多かったことから、腰痛の恐れや体力的負担が大きいといった課題がありました。
そこで安全性と効率面を併せ持つ、空気によって重量物を持ち上げるエアースケータを用いた浮上式床面自由搬送方式に代替。安全対策となったほか、1人でも容易に動かせるようになったため、身体的な負担が軽減されました。
・実施のポイント
環境や設備を改善する場合、高年齢労働者の身体的負担を減らすと同時に、効率面も向上できる仕組みを作ることで、会社としても有意義な効果が生まれると考えられます。
体力づくりの機会提供
健康診断や体力チェックなどを行ったり、運動機会を提供したりすることで、高年齢労働者の健康をサポートします。
・自動車メーカーの事例
ある自動車メーカーは、従業員の高年齢化に対応するべく、健康プログラムを企画し、全社展開しています。就業時間内に体力測定を行うことによって自身の身体や体力への気づきをもたらし、30分~1時間程度の運動指導会を行って、体力維持のための指導を行います。また就業時間外も歩数計などを携帯してもらい、活動量を測ることで、日々の運動習慣を支援する自助努力支援も行っています。
・実施のポイント
職場で体操などを行って健康を目指してもらうだけでなく、高年齢労働者に自身の身体・体力への気づきを与え、自らの注意力を上げてもらうという視点を持つことがポイントといえます。日常における習慣化もカギとなるでしょう。
安全衛生教育の実施
高年齢労働者に最適な安全衛生教育を検討する際には、座学ではなく、動画を活用したり、職場外でも学べるような仕組みを作ったりすることが挙げられます。
・eラーニングと動画を組み合わせた教育手法の事例
企業向けのeラーニング・教育動画サービス「LaKeel Online Media Service」では、安全衛生教育をサポートしています。教育動画は業界の専門家が作成しており、わかりやすい点が特徴です。動画は600種類以上あり、アニメーションで2~3分で手軽に学ぶことができます。
先述の通り、高年齢労働者への教育では写真や図、動画などを活用してわかりやすく、また定着しやすいようなコンテンツが求められますが、同サービスではアニメーションによってわかりやすく記憶に残りやすいように工夫しています。eラーニングであることから、日常業務の隙間時間や休憩時間など、時間や場所問わず手軽に視聴が可能で、反復性もあることから、教育効果が期待できます。
【関連リンク】「LaKeel Online Media Service」
・実施のポイント
高年齢労働者問わず、動画はわかりやすく伝わり、実践につながりやすいことから、取り入れることが有効と考えられます。加えて、アニメーションや業務時間外でも学べるeラーニングで、知識の定着を意識することもポイントといえるでしょう。
勤務形態・労働時間の柔軟な対応
高年齢労働者が希望すれば、働きやすい柔軟な勤務制度・休暇制度を利用できるようにすることが大切です。
・スーパーマーケット事業者の事例
あるスーパーマーケットを運営する事業者の店舗の一つでは、スタッフの約25%が60歳以上です。体力面や家庭の状況などそれぞれの事情がある中でも、個々人がイキイキと活躍する場を提供したいと考え、フルタイム勤務や短時間雇用などケースバイケースでの対応を心掛けています。また高年齢のベテランスタッフの知識やスキルを若手スタッフへ伝えることを促しており、年齢問わず楽しく活躍できる社風づくりも目指しています。
・実施のポイント
高年齢労働者の働く意欲や体力、疲労の蓄積、病気やその他の事情など踏まえることで、高年齢労働者のニーズに合った自由度の高い柔軟な勤務制度や休暇制度を利用できるようにすることが大切といえます。また、イキイキと働けるという視点も重要であり、若手労働者との関わりの機会をうまく持たせることも大切といえそうです。
まとめ
高年齢労働者の活躍を今後さらに推進していくためには、職場環境や勤務形態の改善、体力づくりや健康サポート、安全衛生教育といった多角的な取り組みが不可欠です。これらの対策を実施することで、誰もが安全かつ安心して働ける職場環境を目指しましょう。
今回ご紹介した「LaKeel Online Media Service」は、高年齢労働者の安全衛生教育に役立つサービスです。このシステムでは、労働安全衛生に関するアニメーション動画を600本以上提供しており、高年齢労働者だけでなく、新入者や学習意欲の低い従業員にも興味を持って学べるよう工夫されています。視聴履歴の進捗管理機能や多言語対応を備えているため、あらゆる年代や外国人労働者にも最適な教育ツールとして活用できます。採用企業の規模も中小企業から大手企業と様々で、 延べ350社以上の企業で利用され、約30万人に視聴されています。 (2024年10月現在)
サンプル動画がございますので、アニメーションの教育動画による学びやすさ・理解しやすさを、ぜひ一度体感してみてください。
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