
設備の点検、修理、機械・設備類の交換、異常時の対応、試運転などの非定常作業は、定常作業と比べて作業条件が変化しやすく、安全確認の前提も崩れやすい作業です。
作業開始前に想定していた状態と、実際の現場が違う。
停止したはずの設備に残留エネルギーがある。
関係者間で、役割分担の認識がずれている。
こうした小さなズレ(作業条件の変化)が、想定外の動作や判断ミスを招き、事故につながります。
また、復旧や再稼働を急ぐ場面では、確認手順が省略されやすくなります。
安全よりも作業の進行を優先してしまうと、見落としは一気に増えます。
そのため非定常作業では、個人の経験や注意力だけに任せるのではなく、
作業前の状態確認、関係者間の認識合わせ、作業途中の再確認を組み込んだ、非定常作業に特化した手順書を用意して、訓練しておくことが重要です。
引用:厚生労働省 > 職場のあんぜんサイト、非定常作業[安全衛生キーワード]
林業・木材製造業労働災害防止協会 > 「林業・木材製造業労働災害防止規程(令和5年12月11日適用)」
本テーマは、全4部構成でお届けします。
今回は第2部として、事故の背景にある心理的要因と、現場の「思い込み」が生むリスクを深掘りします。
※非定常作業の定義や定常作業との違いを確認したい方は、「第1部:なぜ非定常作業は事故が起きやすいのか?定常作業との違いや危険性をわかりやすく解説」をご覧ください。
非定常作業はなぜ危険なのか?事故が起こる原因
想定通りに進まない作業の特徴
厚生労働省のリーフレットでは、機械の「調整」作業には、原材料の目詰まりや異物の除去など、機械の運転中に発生する不具合を解消するための一時的な作業も含まれると説明されています。
引用:厚生労働省 > 労働安全衛生規則(◆昭和47年09月30日労働省令第32号)
つまり、現場で突発的に発生する対応も、非定常作業になり得るということです。
このような非定常作業のリスクを高めるのは、想定とのズレだけではなく、
「早く復旧しなければならない」
「生産を止めたくない」
「次の作業が詰まっている」
こうした時間的な圧力が重なることで、確認作業を飛ばす。
停止を省くなど手順書にはない方法で対応することで、本人に悪気がなくても、危険な状態へ近づいてしまうことがあります。
厚生労働省の資料では、製造業において機械による「はさまれ・巻き込まれ」災害が高い割合を占めること、また一度発生すると自力での脱出が極めて困難で、重篤な災害につながるおそれがあることが示されています。
引用:厚生労働省 >「平成25年10月1日から、機械の「調整の作業」が、機械の運転停止義務の範囲に追加されます(安衛則第107条) 」
同資料では、異常発生時に機械を止めず、機械内に手を入れてしまうパターンも、はさまれ・巻き込まれ災害につながる典型例として挙げられています。
よくあるのが、ローラーなどの回転部についた汚れを、機械を止めずに取り除こうとする場面です。
作業者は「少しだけなら大丈夫」「ゆっくり回っているから危なくない」と判断してしまうことがあります。
しかし、手やウエスが回転部のニップポイントに触れた瞬間、巻き込まれてしまいます。
ゆっくり見える機械でも、人体を引き込む力は小さくありません。
参考:経済産業省 > 「非定常作業時の災害を防止するための基本的事項」
厚生労働省 > 「製造業における労働災害防止対策(設備的対策)」
焦り・思い込みに潜む、非定常作業の注意点
作業手順書には、「機械を止めて清掃する」と記載されていることが多くあります。
しかし現場では、その手順が守られないことが多々あります。
それは、
機械を止める。
清掃する。
再び動かす。
状態を確認する。
必要があれば、また止めて清掃する。
この流れを何度も繰り返すより、回転させたまま清掃した方が早いからです。
そこに、「早く復旧したい」「生産を止めたくない」「早く終わらせたい」という心理的・時間的な圧力が加わると、なおさら手順を省く誘惑が強くなります。
さらに厄介なのが、非定常作業の対象がゆっくり動いている機械であった場合です。
高速で回転している機械は、見ただけで危険だとわかります。だから、多くの人は言われなくても触れようとも近づくこうとも思いません。
一方で、低速で回っている機械は怖さをあまり感じません。「気をつけていれば大丈夫」「巻き込まれるはずがない」「今まで大丈夫だった」という認知バイアスが働きます。
労働安全衛生規則第107条第1項では、機械(刃部を除く。)の掃除、給油、検査、修理または調整の作業を行う場合、労働者に危険を及ぼすおそれがあるときは、機械の運転を停止しなければならないと定められています。
引用:滋賀労働局・労働基準監督署 > 「は巻予防~機械による「はさまれ・巻き込まれ」災害予防のための対策読本~」
厚生労働省 > 「非定常作業の安全管理指針」
ただし、機械の運転中に作業しなければならない場合で、危険な箇所に覆いを設けるなどの措置を講じたときは例外とされています。
この法律に基づいて各企業の手順書でも禁じています。
しかし、「危ないからやめましょう」とだけ伝えるのだけでは、現場のトレードオフは変わりません。
回転部の巻き込む力がどれほど強いのか。
一度巻き込まれると、なぜ自力で抜け出せないのか。
低速で動く機械の方がかえって危ない理由は何かなど、具体的に伝える必要があります。
依頼主側と受注側の認識のズレが危険を生む理由
教育の方法も大切なのですが、もう一つ重要なポイントがあります。
管理する側は、「機械を止めてから清掃する」と書いて指導することはもちろん正しいのですが、現場は、安全だけを担っているわけではありません。
時間内に清掃をする。ラインを止めすぎない。品質を落とさない。
そうした責任も同時に背負っています。
安全も効率も全てパーフェクトにこなせれば理想ですが、いつもそうできるわけではありません。
たとえば、巨大なローラーを清掃する作業を考えてみましょう。動かさなければ反対側の汚れが清掃できません。
電源のスイッチは清掃する回転ローラーから離れた場所にあり、止めるたびに移動が必要になります。停止、清掃、再起動、再停止を何度も繰り返す必要があり、作業時間は大きく延びてしまいます。
このとき、現場の作業者は安全と効率の間で板挟みになります。
この現実を見ずに、「止めなさい」とだけ書かれた手順書を渡すと、現場では手順が形骸化します。守らない人が悪い、と片づけても、次の事故は止まりません。
では、どうすればよいのでしょうか。
彦根労働基準監督署安全衛生課の資料『製造業における 労働災害防止のイロハ』では、労働安全衛生規則第107条第1項ただし書の「覆いを設ける等」の一例として、「十分な長さの用具を使用すること」も挙げられています。
引用:彦根労働基準監督署安全衛生課 > 「製造業における労働災害防止のイロハ」
滋賀労働局 彦根労働基準監督署 > 「製造業における労働災害防止対策」
つまり、どうしても機械を運転しなければ作業を完全に行えない場合には、作業者の身体がニップポイント(巻き込まれ点)に近づかない専用用具を用意し、その使用を手順に組み込むという選択肢があります。
ただし、これは「長い道具があれば何でもよい」という意味ではありません。
設備の構造、回転部との距離、用具の長さ・強度・材質、作業姿勢、非常停止装置の位置、周囲の作業者の有無まで確認し、危険を防止できる方法として成立していることが前提です。
さらに、専用用具の使い方、停止確認、合図、作業再開の条件まで練習します。そこまで落とし込んで、ようやく「守れる手順」になります。
人も組織も、時間、人手、情報が限られた中で仕事をしています。安全に、かつ効率よく作業を進めるには、現場の実態を見たうえで手順書を作る必要があります。
現場を見ずに「禁止」だけを手順書に書くと、想定上の作業と実際の作業の差が残ります。定常作業でも危険ですが、非定常作業ではその差がさらに大きくなります。
作業手順書を見直すときは、次の点を確認します。
実際の作業と手順書にギャップはないか。
停止・起動にどれだけ時間がかかるか。
作業者の手がニップポイントに近づく瞬間はどこか。
1人作業なのか、複数人作業なのか。
法令や通達を確認したうえで、より安全で守りやすい方法を選べないか。
現場の人の思い込みやバイアスを責めても、事故は減りません。
思い込みが起きる条件を先に見つけて、
手順、設備、教育で、その条件をつぶしておくこと。
それが、非定常作業に潜む認知バイアスを抑えるための第一歩です。
参考書籍:
Safaty-Ⅱの実践 – Erik Hollnagel
The ETTO Principle:Efficiency-Thoroughness Trade-Off – Erik Hollnagel
RAG_introduction – Erik Hollnagel
まとめ
「LaKeel Online Media Service」は従業員や管理者、そして現場で作業を行う方々が、安全に関する考え方や作業手順を直感的に理解できるように作られている教育支援ツールです。
専門家の知見をアニメーション教材としてわかりやすく可視化し、7か国語対応により多様な人材が在籍する現場でも共通理解を形成しやすい点が特長です。
さらに、現場の実態に合わせて教育動画を作成し共有することができるため、どの現場でも同じ基準で教育ができ、共通認識のズレを減らすことができます。
安全衛生教育は、手順を覚えるだけでなく、現場で「危ない」と気づいて「止める・呼ぶ・やり直す」といった行動につなげることが大切です。
そのために、受講者にどう伝えるかという教育方法の工夫が重要になります。
弊社では、食品衛生および労働安全衛生に関するサンプル動画もご用意しております。
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著者:源 竜弥(みなもと たつや)
(LaKeel Online Media Service 制作チーム / 安全衛生コンテンツディレクター/ナレッジ・ウィーバー)
校正:鈴木 詩緒莉(すずき しおり)
(LaKeel Online Media Service 制作チーム / 安全衛生コラムファクトチェッカー)
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