職場の安全性を確保することは、従業員の安心感を高めるだけでなく、企業全体の生産性向上にもつながります。「ゼロ災」運動を通じて労働災害を防ぐことは、従業員満足度と企業利益の両方を支えるためには非常に重要です。
今回は、労働災害の発生をゼロにする目標を掲げる活動である「ゼロ災」運動の概要からメリット、企業が取り組むべき対応策まで、解説します。


ゼロ災とは?

ゼロ災の概要と背景をご紹介します。

ゼロ災とは?

「ゼロ災(ゼロ災害)」とは、労働安全衛生の分野で広く使用される理念で、職場で発生する労働災害を完全にゼロにすることを目標とした取り組みや考え方を指します。

ゼロ災を目標として実施する取り組みを「ゼロ災害全員参加運動(ゼロ災運動)」と呼びます。これは1973年(昭和48年)に中央労働災害防止協会が提唱したもので、それ以来、多くの事業場で導入され、労働災害をゼロにする取り組みを進めてきました。

ゼロ災運動とは?

ゼロ災運動について、詳しく見ていきましょう。

ゼロ災運動とは、ゼロ災を目指す運動のことですが、単に掲げられた目標ではなく、人間尊重の理念に基づいているのが特徴です。企業が一方的に行うのではなく、労働者を尊重し、全員参加の上で安全衛生を先取りして一切の労働災害を許さない考え方がベースとなります。

そして災害をゼロにするという究極の目標に向け、労働者一人一人がそれぞれに労働災害防止活動に参加し、問題解決に取り組むいきいきとした職場風土づくりを目指します。

ゼロ災は理念

「ゼロ災」はあくまで「理念」であり、「無災害」とは異なります。無災害は「結果」であり、ゼロ災はすべての労働災害を一切発生させないという究極の「目標」であるという点が、取り組む上でのポイントとなります。

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ゼロ災運動の概要

ゼロ災運動は、労働災害を防ぐための取り組みとして、中央労働災害防止協会によって具体的な理念と方針が示されています。その中で掲げられている「理念3原則」と「推進3本柱」をご紹介します。

ゼロ災運動 理念3原則

ゼロ災運動では、理念3原則が中央労働災害防止協会によって次の通り定められています。

・ゼロの原則

単に死亡災害・休業災害だけがなければよいという考えではなく、 職場や作業に潜むすべての危険を発見・把握・解決し、根底から労働災害をゼロにしてゆこうという考え方です。

・先取りの原則

究極の目標としてのゼロ災害・ゼロ疾病の職場を実現するために、 事故・災害が起こる前に、職場や作業にひそむ危険の芽を摘み取り、安全と健康(労働衛生)を先取りすることです。

・参加の原則

職場や作業にひそむ危険を発見・把握・解決するために、 全員が一致協力してそれぞれの立場・持ち場で自主的、自発的にヤル気で問題解決行動を実践することをいいます。

出典:中央労働災害防止協会「ゼロ災運動」

ゼロ災運動推進3本柱

またゼロ災運動では、推進3本柱が中央労働災害防止協会によって次の通り定められています。ゼロ災運動の推進は、次の3つのどれが欠けても成功につながりません。3本柱をセットとしてとらえましょう。

・トップの経営姿勢

安全衛生は、まずトップのゼロ災害・ゼロ疾病への厳しい経営姿勢に始まる。「働く人一人ひとりが大事だ」、「一人もケガ人は出すまい」というトップの人間尊重の決意から運動は出発します。

・ライン化の徹底

安全衛生を推進するには、管理監督者(ライン)が作業の中に安全衛生を一体に組み込んで率先垂範して実践することが不可欠です。ラインによる安全衛生管理の徹底が第二の柱です。

・職場自主活動の活発化

一人ひとりが危ないことを危ないと気付き、自主的、自発的にヤル気で安全な行動をするような実践活動がなければ、職場の日々の安全を確保することはできません。

出典:中央労働災害防止協会「ゼロ災運動」

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ゼロ災活動を行うメリット

ゼロ災活動を行うことには、労働者や企業にとって多くのメリットがあります。これらの取り組みは、職場環境をより安全で快適にするだけでなく、企業全体の成長と持続可能性にも寄与します。

労働災害の減少

労働災害ゼロを目指すことで、従来の労働災害防止の取り組みの意識が強化され、労働災害の減少につながると考えられます。

全社的な安全文化の醸成

安全衛生に会社全体で取り組み、事故のない社風が確立することで、職場全体が一丸となった安全文化を共有でき、社員の活力向上が期待できます。

現場力の強化

職場での自主活動が活発化すれば、職場の問題を労働者自ら解決できる現場力が強化されます。

コミュニケーション・メンタルヘルス対策の活性化

ゼロ災活動を進めることで、上司と部下のコミュニケーションが活発となり、経営側や上司からの一方的な対策ではなく、部下などのすべての従業員を含めた風通しの良い良好な職場づくりにつながります。その結果、メンタルヘルスなどの対策も活性化すると考えられます。

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ゼロ災活動の代表的な手法

ゼロ災運動を実施する上で代表的な手法として知られるのが、「危険予知訓練(KYT)」と「指差し呼称」です。それぞれの手法は、労働災害を未然に防ぐための具体的なアプローチとして広く活用されています。

危険予知訓練(KYT)

KYT(危険予知トレーニング)とは、作業自体や職場にひそんでいる労働災害につながる危険性や有害性などの危険要因を発見し、解決する能力を高めるトレーニング手法の一つです。Kは「危険(KIKEN)」、Yは「予知(YOCHI)」、Tは「訓練/トレーニング(TRAINING)」の頭文字をとって名付けられています。
詳細は下記の記事をご覧ください。

【関連リンク】KYTとは?進め方や例題をご紹介

指差し呼称

危険予知活動の一環として行う行動で、作業者がこれから作業する目の前の対象となるものや、標識や信号、計器類等に作業者が指差しを行い、その指差ししたものの名称と状態を声に出して確認します。これにより、思考や判断、意識、注意力、集中力向上といった効果が期待できます。
詳細は下記の記事をご覧ください。

【関連リンク】指差呼称とは?効果や教育方法解説

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Safety-Ⅱの視点で考えるゼロ災

従来のゼロ災運動は、安全を「失敗を限りなくゼロにする」というSafety-Iの考え方に基づいています。しかし、近年注目されているレジリエンス工学では、Safety-Ⅱの視点から「うまくいく数を可能な限り多くする」ことが重視されています。この新しい視点を取り入れることで、より効果的で持続可能な安全管理が可能になります。

効率性と徹底性(安全に対する)とトレードオフ

「失敗を限りなくゼロにする」ことを目指すSafety-Iのアプローチでは、徹底性を重視するあまり効率性が犠牲になることがあります。例えば、すべてのリスクを細かく洗い出し、完璧に排除しようとする活動が増えると、現場の作業負担が重くなり、生産性が低下する可能性があります。
Safety-IIでは、このバランスを見直し、効率性と徹底性の両方を考慮しながら、「うまくいく数を増やす」視点を取り入れます。以下は、この2つのアプローチの違いを比較した表です。

Safety-ⅠとSafety-Ⅱの違い

特徴 Safety-Ⅰ Safety-Ⅱ
アプローチ 失敗やリスクを排除 成功事例を分析して支援
注目点 問題やエラー 日常業務の成功
対応力 リスクの除去に注力 柔軟性と適応能力を強化

Safety-Ⅱでは、「ゼロ災」を達成することが現実的ではないと考えています。すべての失敗をゼロにするのは難しいからです。そのため、予期せぬ問題が起きても安全を保てるよう、現場が柔軟に対応し、学びながら改善する力を育てることが大切です。

Safety-Ⅱを支える4つの基本能力

Safety-Ⅱを実現するには、職場や組織が変化や不確実性に柔軟に対応しながら、安全を維持していくための能力を高めることが求められます。その中でも特に重要なのが、次に挙げる4つの力です。

1. 予見する能力

将来起こり得る問題を発見する能力です。これにより、潜在的なリスクを事前に察知し、適切な準備を行うことが可能になります。

2. 観察する能力

現在の状況を観察し、異常や問題の兆しに気づく能力です。早期発見が、迅速な対応や被害の最小化につながります。

3. 対応する能力

発生した問題に迅速かつ効果的に対処する能力です。これは、あらかじめ準備された対応マニュアルを活用するだけでなく、状況に応じた臨機応変な対応力を求められます。

4. 学習する能力

過去の失敗や成功から学び、次に活かす力です。同じミスを繰り返さないようにしながら、職場全体の力を高めていきます。

Safety-Ⅱを現場で実現するためには、4つの基本となる能力を高めることが重要です。予見する力や観察する力を養うことで、リスクの兆候を見逃さず、発生した問題に迅速に対応できる現場力が生まれます。これらの能力を職場全体で共有し、高め合う取り組みこそが、ゼロ災運動の推進につながります。

新しいゼロ災運動の提案(Safety-Ⅱのゼロ災運動とは)

Safety-Ⅱの視点を取り入れることで、ゼロ災運動は「失敗をゼロにする」から「うまくいく事例を増やす」アプローチへと進化します。この新しい視点では、職場の安全性を高めるだけでなく、現場の柔軟性や従業員の積極的な参加を促す仕組みを構築することが重要です。そのためには、以下の3つの要素を中心に据えた取り組みが必要です。

・うまくいっている事例の共有

職場で日常的に「うまくいっている」事例を収集・分析し、それを全員で共有・分析する仕組みを作ることは効果的な取り組みの一つです。例えば、作業がスムーズに進んだ理由や、トラブルを回避できたポイントを話し合う「成功事例ミーティング」の実施が効果的です。このような取り組みを通じて、成功の要因を全員で共有し、他の現場や業務にも応用できるようにします。

・柔軟性の強化

突然のトラブルや予期しない問題にも、冷静に対応できる現場の力を養います。そのためには、実際の現場をよく観察しながら、対応力を高めるための訓練を行うことが効果的です。例えば、「なぜマニュアルがあるのか」「なぜやってはいけないことがあるのか」を深く理解させることで、従業員が現実的で効果的な対応を取れるようになります。

・失敗を前提とした設計

失敗が起きても大きな事故につながらない仕組みを取り入れることが重要です。
たとえば、小さな失敗やヒヤリ・ハットの報告を通じて、潜在的な危険を早期に特定し、再発防止策を講じる取り組みが効果的です。このような報告が活発に行われるには、労働者が失敗を安心して報告できる環境を整えることが欠かせません。さらに、これを支える企業文化を育むことで、組織全体の安全性を高めることができます。

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まとめ

ゼロ災は、従業員一人一人を尊重し、それぞれの安全を守る重要な目標です。単なるスローガンではなく、組織全体で取り組むことで職場環境の向上や企業の成長に大きく寄与します。ゼロ災活動を成功させるには、全員が参加し、継続的に学び、職場全体で安全意識を共有することが欠かせません。そのためには、効果的な安全衛生教育が鍵となります。

さらに、近年注目されているSafety-Ⅱの視点を取り入れることで、ゼロ災運動の効果がさらに高まります。Safety-Ⅱは、「失敗をゼロにする」という考え方から一歩進み、「うまくいく事例を増やす」ことに焦点を当てています。このアプローチでは、日常の成功事例を共有し、柔軟性を高め、失敗が重大事故につながらない仕組みを整えることが重要です。
Safety-Ⅱの視点を取り入れることで、現場の安全性を高めるだけでなく、組織全体で学びと成長を促進し、より持続可能な安全文化を築きましょう。

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