近年、過労死などの過労による労働災害の発生状況が深刻化しており、事業者は早急に対応策を実施していく必要があります。今回は、過労死等の定義や過労による労災の現状と共に、過労による労災を防ぐ企業が取り組むべき対策をご紹介します。


過労死等とは?防止策の推進状況

まずは国が定義する「過労死等」の意味と、関連法、厚生労働省が主導する国の取り組みを見ていきましょう。

過労死等とは

過労死等とは、仕事での過度な負担から生じる脳や心臓の病気、または仕事上の強い心理的ストレスが原因となる精神障害による死亡、またはこれらの病気のことを指します。

なお、過労死等防止対策推進法第2条で次のように定義されています。

・業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
・業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
・死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

出典:厚生労働省「過労死等防止対策」

過労死等と長時間労働との関係

長時間にわたる過重労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられており、脳・心臓疾患との関連性が強いとの医学的知見が得られています。

厚生労働省によれば、週40時間を超える時間外・休日労働時間が、月合計で45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まるとされています。

「過労死等防止対策推進法」について

2014年(平成26年)11月に、過労死等の防止のための対策を推進するため「過労死等防止対策推進法」が施行されました。

過労死等防止対策推進法では、「過労死等の防止のための対策を推進することで、過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与すること」を目指されています。また、過労死等防止対策を効果的に実施するため、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」を定めています。この大綱では以後3年間の取り組みを定めるものであり、3年ごとに見直しが図られます。

最新の見直しは2024年8月に行われ、時間外労働の上限規制の遵守の徹底や再発防止指導の強化、フリーランス・事業者間取引適正化等法の施行後の履行確保、個人事業者等の安全衛生対策・健康管理の強化などが追加されました。

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過労による労災の現状

過労による労災がどの程度発生しているのか、統計データで確認してみましょう。

過労死等の労災補償状況

過労死等の現状は、最新の労災請求や支給決定件数より知ることができます。
2023年度(令和5年度)「過労死等の労災補償状況」では、下記の結果となっています。

1.過労死等に関する請求件数:4,598件(前年:+1,112件 / +31.9%増)

・支給決定件数:1,099件(前年:+195件 / +21.6%増)
┗うち死亡・自殺(未遂を含む)件数:137件(前年:+16件 / +13.2%増)

2.脳・心臓疾患に関する事案の請求件数:1,023件(前年:+220件 / +27.4%増)

3.精神障害に関する事案の請求件数:3,575件(前年:+892件 / +33.2%増)

出典:厚生労働省「令和5年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」

過労死認定の基準「過労死ライン」の見直しについて

労災補償において、過労死と労災認定される時間外労働時間が規定されています。その認定ラインによって過労死かどうかが判定されます。そのラインを「過労死ライン」と呼びます。

つまり「過労死ライン」とは、健康障害に発展する恐れのある時間外労働時間数を分けるラインです。

・「脳・心臓疾患」の労災認定基準が2020年5月に改定

2021年9月に、過労死のうち、「脳・心臓疾患」の労災認定基準が改正されました。
改正前は、脳・心臓疾患の発症前1ヶ月におおむね100時間または発症前2か月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月あたり80時間を超える時間外労働が認められる場合について、業務と発症との関係が強いと評価していました。
改正後は、改正前に設定されていた時間に至らなかった場合も、これに近い時間外労働を行った場合には、「労働時間以外の負荷要因」の状況も十分に考慮した上で、業務と発症との関係が強いと評価できることを明確にしました。

・労働時間以外の負荷要因の見直し

労働時間以外の負荷要因については、新たな項目が追加されました。
「勤務時間の不規則性」に関しては、既存の「拘束時間の長い勤務」と「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」に加えて、休日のない連続勤務と勤務間インターバルが短い勤務が追加されました。また、「心理的負荷を伴う業務」と「身体的負荷を伴う業務」が追加されました。

・業務と発症との関連性が強いと判断できる場合の明確化

業務と発症との関連性が強いと判断できる場合として、短期間の過重業務と異常な出来事の例が明示されました。

-短期間の過重業務の例:発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合など
-異常な出来事の例:業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合など

・脳・心臓疾患の対象疾病に「重篤な心不全」を追加

従来は不整脈が一義的な原因となった心不全症状などは、対象疾病の「心停止(心臓性突然死を含む)」に含めて取り扱っていましたが、改正後は、心不全は心停止とは異なる病態のため、新たな対象疾病として「重篤な心不全」が追加されました。「重篤な心不全」には、不整脈によるものも含んでいます。

出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント」

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過労による労災を防ぐ事業主が取り組むべき対策

過労による労災を防ぐ事業主が取り組むべき対策として、厚生労働省が示していることを、わかりやすく解説します。

労働基準・労働安全衛生に関する法令の遵守が前提

まず、事業者は労働基準法や労働契約法、労働安全衛生法などに基づく対応が求められます。
例えば労働安全衛生法では、事業者は職場における労働者の安全と健康を確保することが義務付けられています。労働災害防止のための措置を徹底するとともに、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を実施します。
その上で、過労死等防止のための取り組みとして、次の防止策を積極的に進めていくこと必要です。

具体的な防止策

・長時間労働の削減

現状の労働時間を把握し、長時間労働があれば改善します。目標とされているのは、週労働時間60時間以上の労働者をなくすことです。

・過重労働による健康障害の防止支援

働きすぎによる健康障害の防止のために、時間外・休日労働時間の削減や健康管理を行います。労働者の健康づくりのための支援を進めましょう。

・働き方の見直し

ワーク・ライフ・バランスのとれた働き方ができる職場環境づくりや、計画的な年次有給休暇の取得を推進します。

・職場におけるメンタルヘルス対策の推進

メンタルヘルス対策を進め、随時ストレスチェックを行い、労働者も自らストレスに敏感になり、ケアを進める風土づくりが大切です。

・職場のパワーハラスメントの予防・解決

職場のパワハラ対策として、社長などのトップからのメッセージの打ち出しやハラスメント研修の実施、職場内のルール作りが重要です。

・相談体制の整備

労働者は過労死等の危険に気付いたときは早急に周囲や専門家への相談が求められますが、企業側も相談体制を整備することが必要です。国や民間窓口の案内や産業保健スタッフとの連携などが挙げられます。

・「疲労蓄積度自己診断チェックリスト」の実施

従業員が自身の疲労蓄積度をチェックできる「疲労蓄積度自己診断チェックリスト」が厚生労働省より示されています。これを労働者に実施することも一つの方法です。

参考:厚生労働省「STOP!過労死」

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まとめ

過労死等の労働災害が増加している現状を踏まえると、企業は従業員の健康を守るための対策を今まで以上に重視する必要があります。長時間労働の削減や健康管理の徹底、メンタルヘルスケアの推進など、日頃から予防策を徹底することが求められるではないでしょうか。

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